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VEX方式完全無通風自動製麴装置の開発

Special 02 | 心ある機械は琴線に触れる酒を醸し出す
狩山昌弘
森 章
下林茂俊
VEX方式完全無通風自動製麴装置
EPISODE 01

今までにない製麴装置の開発へ

ここに麴づくりの常識を超えたひとつの機械がある。その名は「VEX方式完全無通風自動製麴装置」。
今まで機械化・自動化が困難と言われた吟醸酒など高級酒の麴づくり(製麴-せいぎく-)を高品質かつ安定的に生産することができる「VEX方式完全無通風自動製麴装置」の開発に迫った。
麴(こうじ)は、米、麦、大豆などの穀物に、麴菌(糸状菌の一種)を生育・繁殖させたもので、日本の伝統的醸造製品-例えば清酒(日本酒)、味噌、醤油、焼酎など-においてその味と香りに大きな影響を与える。とくに清酒の場合、品質や個性(味や香り)の決め手となるため、この麴づくり(製麴)は酒づくりの根本として重要視されている。

今や海外でも評価の高い清酒、特に、吟醸酒、大吟醸酒、純米吟醸酒は、全清酒製造数量の内でもシェアを伸ばしており、生産性の向上が求められていた。しかし、通常の酒より高品質であるがゆえに蔵人の経験と技術力が求められ、中小メーカーにおいては製造技術の担い手である杜氏や蔵人の減少や高齢化、後継者不足といった問題を抱え、次世代への技術の伝承が急務となっていた。
高品質の麴を安定的に製造することは、高度な技術を有する熟練した杜氏でさえ困難な管理操作を必要とした。また、昼夜を問わず丸2日以上にわたり人手による管理が必要な作業のため、酒造家、醸造場の存亡に関わる課題となっていたのだ。

そこに立ち向かったのがフジワラテクノアートだ。

高品質かつ安定的に麴を生産することが出来る自動化装置を開発することにより、全国約2,000の醸造場の製造技術の発展に寄与できないだろうか。70年以上の歴史のなかで培われたフジワラテクノアートの醸造生産技術で、日本の伝統的食文化の発展に資することができないだろうか。
今までにない製麴装置の開発が始まった。

EPISODE 02

清酒づくりの本質を捉える

常務取締役の狩山(開発当時、技術開発部課長)は語る。
「吟醸酒や大吟醸酒専用の吟醸麴は機械では作れないといわれてきました。吟醸酒用の麴は、一般酒の麴と大きく異なります。例えば、山田錦のような酒造好適米を使用し、米の表面から40%以上(大吟醸酒は50%以上)を削り取ります。これにより吟醸酒の敵である雑味成分を除去します。麴の役割である酵素生産(*1)において、各種生産酵素の量が適切な範囲でなければバランスよく醗酵することが出来ません。吟醸麴は杜氏の昔ながらの手法で手づくりしなければ出来ないと言われてきました。」

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*1
麴(こうじ)は、麴菌(糸状菌の一種)を穀類(米、麦、大豆など)に生育させたもので、麴菌が繁殖する時にさまざまな酵素を生産します。酵素は生き物の体内で作られるタンパク質の一種で、数百のアミノ酸がつながってできています。
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開発のきっかけは、ある機能性布との出会いであった。
空気を通さず、水蒸気を通すという非常に面白い特性をもったePTFEラミネート(ジャパンゴアテックス株式会社製)。ポリテトラフロロエチレンを素材とした機能性布であり、市販のスキーウエアやゴルフのレインウエアなどに使用されて、体が蒸れない素材としてよく知られている。この布の特性を活かせば従来の酒造業界では概念のなかった無通風状態における吟醸麴専用の製麴装置が出来るのではないかとの方向性を見いだしたのだ。

ePTFEラミネート
VEX設置例VEX棚装置断面概略図

さらに、狩山たちは清酒づくりの本質を捉えようとした。
手づくりの麴づくり方法に「蓋麴法(ふたこうじほう)」という伝統手法がある。麴蓋(こうじぶた)という小さくて平たい杉の箱(通常30×45cm)を使い、3cm程度の厚みに麴を堆積させ、麴室(こうじむろ)の中に多数重ねる。室内温湿度などを杜氏の五感と長年の経験・勘で調整しながら手間隙かけて麴を造るのだが、一つの箱に入る麴の量が少ないため、手間がかかる。しかしその分、麴表面から水分を適性に蒸発させながら適性品温経過を実現し、吟醸麴の命である「突き破精麴(つきはぜこうじ)」を造ることができる。この「突き破精麴」こそが吟醸酒に相応しい味と香りを醸し出すのだ。この蓋麴法の本質を抽出しそれをシステムで実現すればよいのではないか。
こうして開発は始まった。

狩山は語る。
「通常の製麴自動化装置は他社でも製造されていました。従来の装置は、通気式製麴法といい、麴層に風を送ることにより温度や湿度を制御するというしくみです。この方法で製造された麴は普通の清酒の製造上は問題がないのですが、吟醸酒や大吟醸酒の製造には使用できません。なぜなら麴表面からの水分蒸発が不十分で、突き破精麴にはならないからです。
そこで、私たちが考えたのが、無通風状態で水蒸気分圧差により水分蒸発量を制御することで適性品温経過を実現し、同時に麴表面から十分な水分蒸発を確保して高品質な吟醸麴を作り出すシステムです。ePTFEラミネート(ジャパンゴアテックス株式会社製)は非常に細かい孔があいているテフロン膜の両面を布で貼り合せたものです。この機能性布の構造と特性を利用すれば我々が考えた水蒸気分圧差制御システムが実現できると考えたのです。このような発想のシステムは今までありませんでした。」

このePTFEラミネート(ジャパンゴアテックス株式会社製)と水蒸気分圧の考え方で麴からの水分蒸発をコントロールする水蒸気分圧差制御という発想こそ「VEX方式(Vapor pressure Equalizing Control System)」といわれる所以だ。

EPISODE 03

先入観という大きな壁

狩山たちは吟醸麴用の製麴装置を造ると決めてから、先ず制御システムの理論を検討し確立した。その結果はすぐに特許出願して特許権を取得。並行して小規模な実験装置を造り、考えた理論が正しいか試行錯誤しながら多くの検証実験を行なった。そして50kgの麴が製造できるテスト装置を開発した。これは現在販売している装置の原形にあたる。テスト装置の運転とデータ収集を担当した森は語る。

「麴室と同じ環境を社内につくり、50kgの小さなテスト装置を使用してデータ収集を行ないました。はじめに吟醸麴を6cm堆積すると決め、種麴(たねこうじ)を振りかけ…と麴づくりの工程を手探りで行ないました。6cmがよければ次は7cm、8cmといった具合です。その結果、6cmという結果にたどり着きました。」

しかし、開発プロジェクトの中でどうしてもメンバーだけでは出来ないもどかしさがあった。それは、検証実験の麴の品質評価である。最も重要な麴の品質評価は開発担当者だけでなく、やはり第一線の醸造技術者にお願いしなければ、どれだけ吟醸麴用に適していると仮説を立てて理論化しても実証されないからである。森は、50kgのテスト装置をお客さまの所まで運び組み立てて、そこでも運転とデータ収集を行なった。

「最初はあまりいい顔をされませんでした。杜氏さんはその酒蔵の使命を背負っている酒づくりの責任者です。もちろん麴についても熟知されているし、自分の造りたい麴を杜氏さんはそれぞれ持っていらっしゃいます。いくら装置の原理を説明して理論はわかって頂けても、じゃあ本当に自分の求める麴が出来るのかということです。そのためには麴を見てもらうしかないと思いました。製造部のメンバーと一緒に、テスト装置をばらしては、トラックに積み、お客さまのところへもっていっては組み立て、実際にテスト装置で造った麴をみてもらうということの繰り返しです。1回のテストにはまる2日かかります。3日目…できあがった麴をみてお客さまの顔色が変わりました。でき上がった麴に興味をもっていただけたら、そこからやっとスタートという具合でした。」

良質で再現性のある吟醸麴は機械では出来ないということが酒造業界では常識とされていた。事実既存の機械でそれを実現しているものはなかったからだ。その先入観を取りのぞくことが最も困難だったと森は語る。そのためには、手づくりと対比した十分な説明を実施するとともに製造した麴を評価して頂くことしか信頼を得る方法はなかったのだ。実際にテスト装置を持ち込んでの麴をつくってみせると杜氏からは高い評価を受けた。数社での持ち込みテストは成功裏におわり、これにより本格販売を開始したのだ。

EPISODE 04

評価されるVEX方式

「多くの実験を繰り返すことで少しずつ吟醸麴づくりの本質が理解できるようになり、また、杜氏の経験に基づく"麴づくりの在り方"を聴くうちに、それが"麴づくりの本質"をついているということが理解できるようになりました。このことは、従来と全く異なるコンセプトの方向性に間違いがないことを確信させてくれ、諦めることなく開発ができたのです。」
と狩山は振り返る。

森も語る。
「突き破精麴は時間によって香りも味も変化します。お客さまのところでテストをさせて頂く際は、極力自分の意見を言わずにお客さまの反応を聴かせて頂きました。随分と勉強させて頂き、多少ですがわかるようになってきました。当然データが最優先ですが、ユーザーさまと同じ視点にたって品質チェックができたことはとても良かったと思います。」

また社内外にて多くの手動制御テストを繰り返すうちに、麴温度制御において特殊な規則性があることに開発チームは気付く。
この知見に基づき特殊アルゴリズムを新開発することができ、品質における再現性の高い自動化が実現した。しかも、手入れ(撹拌)の自動化とも相まって、無人運転化を実現したのだ。
「VEX方式完全無通風自動製麴装置」の誕生である。

VEX設置例

この装置は伝統的麴づくりの蓋麴法と同じ状態を作り出し、高品質な麴づくりができるだけでなく、生産性の向上、全自動化による無人化、そして安定して生産できるという再現性を兼ね備えている。その後、2004年には第1回新機械振興賞受賞、中小企業庁長官奨励賞など、多くの賞を受賞することとなる。そしてこの賞を通して、「VEX方式完全無通風自動製麴装置」は清酒業界や多くの醸造技術者に知られることとなった。

入社11年目。技術営業部営業担当の下林は語る。
「VEX方式完全無通風自動製麴装置は清酒メーカー向けに開発されていますが、各蔵の杜氏からはなかなか認めて頂けないことが多くありました。最近は、技術発表会でも紹介されていますので、業界の中での製麴装置としての認知度は高くなりました。杜氏間でも意見交換をよくされていますので、良い装置だと認識して頂ければ相乗効果も期待できます。今後多くのお客さまに導入されることを期待しています。」

開発に関わった森は語る。
「受賞できたことは大変名誉なことだと思います。しかし、それ以上にユーザーの担当者様に、『この機械を使って良い麴ができないとすれば、よっぽど職人の腕が悪い』と言って頂けたことのほうが嬉しかったですね。」

EPISODE 05

心ある機械は琴線に触れる酒を醸し出す

VEX方式完全無通風自動製麴装置を導入して飛躍的にお酒の品質が上がった醸造場がある。この装置は、ただ重労働だった麴づくりを機械化し労働的に麴を造り出すマシーンではない。いわば、各蔵の杜氏が想い描く酒づくりをサポートするサポーターである。どんな酒にしたいのか決めるのは杜氏であり蔵人だ。VEX方式完全無通風自動製麴装置はそのデータを基に製麴する。今までの既存装置と大きく違うのは酒づくりの本質を伝統的な蓋麴法のなかに隠されていることを突き止め、機能性素材と全く新しい制御システムによって、従来もっとも難しいと思われてきた「麴づくり」の自動化を実現したということだ。VEX方式完全無通風自動製麴装置ほど高品質で生産性、再現性の高い装置はないだろう。手づくりでもその本質を捉えていなければ味は濁る。逆に心ある機械は琴線に触れる酒を醸し出すのだ。

下林は語る。
「まだまだ機械化に戸惑われる蔵人や杜氏様はいらっしゃいます。設備投資ですからお金もかかることはもちろん、機械化によって省人化が進むのでは?という不安もあるようです。ただ、10年後20年後の酒づくりを考えるならVEXほど高品質で再現性の高い装置はありません。VEXは導入前に比べて大量に高品質の突き破精麴を造ることができます。それによって高いレベルでの品質の安定化を生み、杜氏も安心して酒づくりができるのです。私は、時間をかけて良さを理解して頂くことを心がけています。」

清酒日本酒
VEX外観

最後にメンバーに仕事の醍醐味を聞いてみた。発案から基礎実験、テスト装置の開発や特許出願まで担当した狩山は語る。
「自分が確信したことをやり遂げること。この確信を持続するしかない。」

テスト装置の運転とデータ収集、実機運転の立会いに関わった森は語る。
「フジワラテクノアートの開発はとことん社内で討論します。お互いの意見を尊重しながらも納得できない部分は『じゃあやってみようか!』といえる社内環境があります。開発メンバーと達成感を共有できることがもっとも面白いと思います。」

下林は語る。
「営業担当ですから、受注できた喜びは大きいです。特に私はファーストコンタクトをとても大切にしています。マニュアルをもっていってもお客さまの心は動きません。予想外の質問にもきちんとお答えできるよう製品はもちろん業界やお客さまの製品に興味を持ち勉強しておくことが大切です。何年もかけて準備してきたことが実を結ぶと『よっしゃー!』という気持ちになりますし、ひとつの製品が大変ご満足頂けて次の製品につながることもあります。結果を出すことで人脈も増えてきますので、人間的にも成長できることがやりがいであり、面白さだと思います。」

VEX方式完全無通風自動製麴装置が高いレベルでの品質の安定化と生産性を生み、吟醸酒や大吟醸酒の需要を喚起し、酒造りメーカーの経営を安定させ、酒造業界の活性化が図られると期待している。

世界へ広がる日本食文化
VEX方式完全無通風自動制麴装置の開発
焼酎醸造元トータルエンジニアリング
吟醸蔵商品群をはじめとする日本酒製造機械
日本初!バーサテック&横中グリ盤の導入
粉体殺菌ソニックステラ開発秘話

株式会社フジワラテクノアート
マイナビ

フジワラテクノアートは、2014年に創業80周年という大きな節目を迎えました。醤油、味噌、清酒、焼酎などの醸造分野で、麴づくりの全自動無人化への道を切り開き、国内の製麴分野で約80%のシェアを誇るなど、その卓越した技術力は各方面で高く評価されています。また一般食品やお菓子、バイオなどの分野にも幅広く展開しています。弊社の強みは、オンリーワンの醸造生産技術。伝統食品を支えてきた職人の匠の技を最新の制御技術により知能化し、近代的な自動生産システムを構築できる点です。私たちと一緒に「オンリーワン」の仕事をしてみませんか。


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