新たな挑戦へのプロローグ
2004(平成16)年、フジワラテクノアートは、醸造設備のみならず、建築の設計及び監理を請け負う「トータルエンジニアリング」という新たなビジネスモデルを構築した。これにより、プラント主体で工事を進行することで、機械搬入を優先した建築工事を行なうことができる。
K酒造の焼酎設備は、本格的な「トータルエンジニアリング」で行なう2回目の受注であった。
一日あたり一升瓶4万本の生産が可能で、年間製造能力は以前と比べて1.5倍に向上するというものだ。完成までの期間は約2年。
この規模の設備は今まで類を見ず、フジワラテクノアートにとってもメンバーにとっても非常に大きな「挑戦」であった。
プラントの総括を担当したエンジニアリング計画部の安井は語る。
「単なるプラントメーカーや機械メーカーでは、2回目の受注は難しいと思います。フジワラテクノアートは、醸造機械の専門メーカーとして物性の状態および変化を把握しています。そのことが的確な指示及び対応に繋がり、お客さま(K酒造)の信用をいただけたと思っています。また、お客さまからの要望事項内には、専門用語が沢山あります。その内容が理解でき、その場でコミュニケーションが計れるのもフジワラテクノアートの強みです。」
プラントの総括にあたり、安井の役割はすさまじい。
プラントの計画(レイアウトの検討および作成、お客さまへのプレゼンテーション、仕様の確定、原価積算)から契約までの作業。契約後から工事開始までは、お客さまとの打ち合せはもちろん、各協力企業(機械メーカーおよび建築会社)への指示など。工事開始から完了までは各種交渉、打ち合せ、納期管理、調整などなど。
安井は語る。
「私は入社後10年間、技術部で単品機器の設計からプラントの設計まで経験し、その後技術営業部にて10年間営業をしてきました。この経験があったからこそ、現在のエンジニアリング計画部において、お客さまからの要望の把握や提案が打ち合せの中で可能なのです。さらに、短期間で全体をまとめ上げ積算をすることで原価把握を行い、このプロジェクトを進めることができたのです。」
立秋を過ぎた頃から芋焼酎の仕込みは始まる。
少しの気の緩みが工期の遅れに繋がるとも限らない。
今回のプロジェクトの場合、お客さま(K酒造)の担当者や他の企業との打ち合せは定期的なもののみではなかなか進展がないと安井は判断した。問題が発生した際に、迅速な対応が出来るように常駐することにしたのだ。これにより、既存設備の確認および問題点の確認と新規設備への対応検討およびお客さまとの確認・承認作業が迅速に図られた。
職人と向き合うものづくり
焼酎が生み出される工程には、長年職人たちが時間と労力を惜しまず作りあげてきた感性と技が集約されている。特に麹は焼酎造りの要。味わいを大きく左右するという。
今回、原料処理を担当した石原は語る。
「焼酎関係の原料処理を担当したのは、今回が初めてでした。それまでは、清酒の製麹設備や原料処理を主に担当しており、今まで経験してきた米処理プラントとの融合を自分なりに考えました。清酒と焼酎では扱うお米の種類が違います。携わってくださる職人さんとコミュニケーションを図り、また、プロジェクトメンバーのアドバイスを受けながらの作業でした。私たちは、最終製品(焼酎)を製造するわけではありません。職人さんやK酒造のこだわりを否定しないこと、現場にいる人たちとコミュニケーションをすることが大切だと考えています。」
「フジワラテクノアートのエンジニアリングとは、お客さまと向き合い、提案をしながら意見や要望を取り入れ、処理能力や機械配置などを決めいくことです。」
と語ったのは、今回、芋処理、仕込み、蒸留を担当した片山だ。
さらに片山は語る。
「エンジニアリングについてはプロであっても焼酎造りについては知らない部分がまだまだ沢山あります。現場に滞在し、作業の工程を見ながら、それを基本に自動化を考えています。機械設計においては、まず処理能力を満たすことが重要ですが、安全性や作業性、工場に搬入できるか、使いやすさや洗浄のしやすさなど、様々な観点を考慮しながらお客さまにあった設計を行なうのです。今回特に気を配ったのが蒸し芋を仕込み水で送る装置です。実績は、他にもあるのですが、今回の処理能力は今までの実績の2倍近くという大きさでした。これは、単純に機械を大きくすればよいという理屈にはなりません。慎重な設計が要求されました。何度も職人さんたちと話し合いながら良い状態にもっていきます。試運転時も非常に気を配りましたね。」
環境に配慮した工場設計
今回のプロジェクトで気を配ったのは、各醸造機器だけではない。
K酒造は企業活動で発生する環境影響の軽減に積極的に取り組んでいる。ISO14000を取得していることもあり、プラントと近隣の住民および環境に優しい機械の導入が課題であった。
安井は語る。
「まず近隣住民への配慮として騒音対策を中心に対応しました。具体的には、騒音の出る設備を配置する建物についての防音壁の採用や窓等の開口部のレイアウトです。また、環境に優しいメーカーと機種を選定しました。例えば、冷凍機はフロン冷媒を使用しないアンモニア冷媒方式を、ボイラーも燃料をLNGを仕様し、窒素酸化物の発生しないボイラーの採用を行ないました。このように選定していくとどうしてもコスト面で高くなります。しかし、これから先も継続していく事業活動と発生しうる環境影響を考えた時、ひとつひとつが目的と理念に合ったものであるかお客さま(K酒造)と協議していきましたね。」
老舗の味を守れるか
1回目の納品後まもなく2回目のプロジェクトが開始された。
片山は語る。
「1回目の納品後まもなく2回目のプロジェクトのエンジニアリングが始まったので、同時に納品した機器の使いやすさなどを自分の目で確認しながら設計に挑みました。現場へ出向き、実際に機械を操作、洗浄されている方々に調子を聞きながら、同時にメンテナンスも行なっていきます。現在2回目のプロジェクトの運転が始まっていますが、安全性、作業性などを確認すると同時にメンテナンスのポイントなどのアドバイスも行なっています。」
フジワラテクノアートのサポートは、単に機械のメンテナンスだけに留まらない。
安井は語る。
「今までの製品(焼酎)ができることは最低条件に過ぎないのです。将来を見据えて新たな製品造りのアドバイスも重要なアフターフォローとなるのです。」
美味しい焼酎を届けるために
フジワラテクノアートは醸造機械、プラントを造る単なる『業者』ではない。
お客さまが永きに渡り守り研ぎ澄ませてきた製品(焼酎)をともにつくりあげる『パートナー』でありたいのだ。だからこそより良い成果への努力を重ね、「協働」の精神を持って仕事に取り組んでいる。
片山は語る。
「自分の設計したプラントが完成し、順調に稼働していて、作業されている方々に喜んでいただけるのを見ることは、設計者にとっては仕事を超える喜びがあります。その焼酎で晩酌するのも美味しさ倍増です。今回、社内はもちろんですが、据付現場でもプロジェクトにかかわる人々、協力企業も含めて、不思議なほどに仲間意識が強くありました。これもこのプロジェクトに一人ひとりがやりがいを感じ、高い目標を掲げていたからでしょう。」
フジワラテクノアートの本格的な「トータルエンジニアリング」という新たなビジネスモデルに対しても、評価は高い。
石原は語る。
「従来はエンジニアリング会社が新設工場の建築と機械装置の両方をまとめるというエンジニアリングを提供していました。しかし、日々活動する生産工場では機械装置が主導です。弊社のように機械や工程の流れを分かっている会社が、建築と機械装置全体をまとめることで、建物との関わりがうまくいくのです。また、プロジェクトに関わる人たちが同じ目線でコミュニケーションが取れ、円滑な工場建設が実現したのではないかと思います。」
こうしてK酒造の創業90年という長きに亘り培ってきた伝統の技と最新鋭の技術が融合された工場が完成したのだ。
工場披露式典には、プロジェクトのメンバーや企業はもちろん、全国の酒類流通業者をはじめ、約800人が招待された。式典中、K酒造の社長が直々にフジワラテクノアートのメンバーへ感謝の言葉を語った。感無量の喜びだった。
安井は語る。
「今回、自己満足だけでなくお客さまからも満足していただけました。自信をもって人に見せられる工場を完成させることはそう経験できるものではありません。今回のプロジェクトはメンバーにも恵まれたこともあり、ひとつひとつが経験となり新しい発見もありました。完成時にお客さまを含め関係者一同で祝福できたことが最高に嬉しかったですね。」





